本日は良いお日和で・後

 なに、そんなに悲しい顔をなさらずに。最後まで聞いてくださいよ。
 言葉通り、真琴は年に二枚だけ葉書をくれました。ただ、それ以外は決して連絡を寄越しませんでしたがね。
 それが決して怒りからではないことは、青みがかった墨で書かれたお見舞いの挨拶を見れば、誰の目にも明らかです。
 何も知らない両親が、敬介の結婚式に真琴を呼ぼうとしましてね。私が命を懸けて止めました……良い思い出です。
 そして、ある年届いた暑中見舞いに、結婚しましたという一言が添えられていたとき、敬介は声を嗄らして泣きました。
 よく晴れた日のことでしたっけ。

 今では真琴にも三人の子供と五人の孫がいます。
 どうです、悲しい物語なんかじゃなかったでしょう? 二人は幸せになったんです。

 あなた、せっかくここまで聞いたのですから、これから世田谷公園の噴水に行きませんか?
 敬介と真琴の、五十年ぶりの再会ですよ。昼過ぎから二人きりにしてあります。
 ディナーには私も誘われていましてね、あなたをご招待するのも悪くない。
 大丈夫、もう時効ですよ。
 彼らは間違いなく幸せで、そして同時にお互いを愛してもいる。
 なら、今までの話は全部過去の話だ。
 あなたに根ほり葉ほり聞かれたところで、どうして都合の悪いことがありますか。

 やぁ、今日は本当に良いお日和で。
 この夕焼けだと、明日もお天道様の機嫌は良さそうだ。
 行きましょうか、二人の笑顔が待っていることでしょう。
 目に浮かぶようですよ、敬介は可愛い弟だし、真琴はまだまだ美しい。
 幸せですねぇ、私の初恋とその結末は、決して間違ってなんかいなかった。
 あぁ、あちらの空はまだ青い。あんな青を見ていると、胸が締め付けられる心地がします。
 愛しているよと、今なら真っ直ぐ言えるでしょうか。



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